核兵器禁止条約発効に思う

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核兵器禁止条約発効に思う

 

■中国の「海警法」が令和3年2月1日から施行

この投稿が公開される頃には、尖閣に侵入する中国公船が日本船に発砲しているかもしれません。中国が勝手に主張する「管轄海域」では何時でも何処でも「武器使用」を正当化する“法律”が一方的に施行されました。発砲や拿捕になった場合、尖閣は奪取される可能性が高い。外国を頼りにして対抗措置を躊躇った結果、実質的に奪われた「竹島」の過去を思い出します。「平和を愛する諸国民の公正と信義・・云々」が通用するのだと思い込んだ“平和主義”の妄想が露呈しました。これからは毎日、武力を行使される可能性が続きます。中国は沖縄諸島の「領有権」にまで難癖をつけています。いわゆる「第一列島線」を制圧する軍事行動の始まりです。もはや米国だけでは、中国の軍事侵攻に対処することが困難になってしまい、「インド・太平洋戦略」QUAD(日米豪印四ヶ国協力態勢)に移行し、そこに、フランス、英国、ドイツまでが艦艇を派遣して共同歩調を取らねばならなくなったのはご存知だと思います。

 

■「核兵器禁止条約」批准の脳天気

 トランプ政権では、より踏み込んだ「尖閣諸島の防衛」を日米安保条約の任務にしましたが、バイデン政権では過去の「安保条約5条の適用範囲」に後退しました。それでも日米安保は最重要です。無論これだけで尖閣などの領土防衛には足りず、私達の覚悟が問われていると考えます。この状況にありながら、国民に迫る危険を知らせるべき報道は、不作為のままで唖然とします。

令和3年1月22日に、2017年の国連総会で採択された核兵器禁止条約が50の国と地域で発効しました。日本も含めた世界の主要国や核兵器保有国のすべては、採択の時、投票にも参加しなかった条約です。これに関してNHKの広島総合テレビは“発効日”に特番を放映しました。登場した被爆者たちは異口同音に日本政府に「核兵器禁止条約の署名と批准」を求めています。政府見解として「批准も調印もしない」発言を出すも、批判対象としてしか取り上げませんでした。そして、この条約(以後「核禁条約」と略称)を殆どのマスコミは、称賛はするが日本の「安全保障」との関係に踏み込んだ報道はほぼ皆無なのです。

「核禁条約」の第一条(禁止)と第二条(申告)は日米安保とは両立せず、対立します。

軍事モンスター化した中国などの覇権拡大、尖閣進攻に日本だけで対処する能力は、今は望めません。日本国民の7割以上が日米安保を評価している理由です。

 

「核禁条約」では日本に入港する米国艦艇や在日米軍に、核兵器の無いことを証明させ(申告)、核兵器に繋がるもののすべてを撤去させること(禁止)を義務にしています。そして「締約国会議」でその内容を公表します。ブッシュ(子)政権以降、アメリカ国外の米軍には核兵器を携行しないことを方針としていますが、個別には核兵器の存否を曖昧にしてパワーバランスを保ち、平和と安全を維持している現状があります。

もしここで、個々の艦船や施設の持つ装備の詳細を公表することになれば、日米同盟の根幹は崩れます。日本を恫喝している国には一方的に有利になる条項です。このような現在の安全保障の枠組みを壊すことへの視点を欠いた「核禁条約批准」推進とは、言葉だけの平和を弄ぶ脳天気な行動であるとしか思えません。マスコミの煽りに警戒をして下さい。

 

「ヒバクシャ」と「被爆者」

 NHKが登場させた人たちの主張は、決して、被爆者全体の意見を集約したものではありません。そのことは被爆者家族である私たちが良く知っています。マスコミに登場する「被爆者」と私達の被爆者家族とは全く意見は異なっています。広島では、国と国民の安全保障を毛嫌いして“核廃絶”“反核平和”“安保法制反対”“特定機密保護法反対”“恒久平和”“憲法平和主義”の類だけを叫ぶ人たちを「ヒバクシャ」と呼び、「被爆地の意思」とされてきました。そうでない「被爆者」の意見は表明機会もなく無視されてきたのを経験しています。よく喧伝される「被爆7団体」とは全く無縁の「被爆者」や「被爆二世、三世」が多数居ることを認識して下さい。

NHKの特番でも、そのような「ヒバクシャ」だけが登場してきたな、と感じました。核禁条約に関する他の報道でも、それを称賛し、「背を向ける日本政府」を批判しながら「妄想的平和論」に帰着させる安直さに溢れています。国際政治のリアリズムを放擲したら核廃絶が達成できると期待・夢想するのは安直過ぎる考えだと思います。

 「ヒバクシャ」の意見だけが「被爆者全体の意見」ではないことを重ねて申し上げます。戦後の長い論調の中で、特定の被爆者意見だけが「被爆国」の意思であるかのような風潮になった結果、「ヒバックシャ」意見への反論が躊躇される現状では、日本の平和と安全は消し飛ぶかもしれません。

 

広島市の「平和行政」

 「ヒバクシャ」の意見だけが元になっているのが、広島市が推進する「平和行政」だと言って過言ではないと思います。広島市の公式見解として示されたのを要約すれば次のようになります。

 

1)核抑止論は時代遅れである。唯一の被爆国として、率先して「核禁条約」に加盟すべきだ。

2)被爆国日本は核兵器保有国に対して、核に依存しない世界に導く道義的責任がある。

3)核廃絶こそが恒久平和に至る道であり、核禁条約はその一歩である。

4)日本の8割と世界の多数の自治体が加盟する「平和首長会議」で、核廃絶の働きかけをする。

5)日米同盟などの安全保障に関する事柄は、国の問題であるから言及しない。

 

 身勝手だと感じました。今現在の平和と安全を根底から覆す条約の批准要求をしながら、平和と安全の具体的方法は国の問題だから市は関係ない、とするのは自身の「平和論」が“言葉遊び”に過ぎないのだと白状したようなものです。

 しかし、“それもそのはず”なのです。日本の「反核運動」は労働運動と結びついて夫々の政治イデオロギーを覆う「薄皮」に過ぎませんでした。日本原水協:「社会主義国の核兵器は防衛目的である」、日本原水禁:「すべての核兵器に反対、平和利用も排除」(しかし、所属する国会議員が中国の核実験成功に祝電を送ったことを忘れません)、核禁会議:「すべての核兵器に反対、平和利用促進」の3つに大きく割れて対立し、時に抗争がありました。他方、純情一途の被爆者感情は核兵器を兎に角忌避して平和第一と考えるが故に、現実の安全保障には思考が届きません。

 冷戦崩壊後、「すべての核兵器に反対」に収斂しましたが、対立時代の政治的思考の残滓が、今も多数存立する「反核団体」に今も残っているようです。このような水面下の確執を統合するスローガンが「核廃絶」だったとすれば、「ヒバクシャ」の主張も、広島市の身勝手も解けはしますが、同調はできません。これでは「核廃絶で恒久平和」どころか、私たちの平和を脅かしていると言わざるを得ません。

 

「核禁条約」を批准したのはどんな国か

 令和3年1月22日の段階で、批准した国と地域は52になりました。マスコミが関連付けて報じない事柄も合わせて少し掘り下げます。

☆2017年7月7日の国連総会で賛成投票をした国と地域からの批准国・・・43

☆同総会で投票に不参加の国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

☆国連に代表権のない国(地域)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

同総会で「賛成」投票をしたのは122の国・地域でしたから、発効要件の50に達した令和2年10月24日までの3年3ヶ月で、賛成国の批准が少ないのは熱気が冷めたのではと感じます。

 

次に国の規模や地域を見ます。

☆大洋州、カリブ海、地中海にある「島嶼国」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

☆人口100万人未満の国・地域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

☆上記のうち、人口30万人未満の国・地域(最小はニウエのわずか1520人)・・・・16

 (注:批准国の一つであるローマ法王庁のバチカン市国内居住者、約820人を除く)

 

日本とは価値観の異なる国があります。国連理事会で香港とウイグルへの弾圧をする中国を支持する決議をした国々です。

☆香港国家安全維持法を支持した国・・10

カンボジア、ラオス、レソト、ニジェール、パレスチナ、ニカラグア、キューバ、ドミニカ国、

 アンティグア・バーブーダ、ベネズエラ

☆ウイグル人権問題で中国支持の国・・10

カンボジア、バングラディシュ、ラオス、ナイジェリア、ニジェール、パレスチナ、ニカラグア、キューバ、アンティグア・バーブーダ、ベネズエラ

 

また、米国防総省の報告では、中国から基地建設を要求された国として、タイ、ナムビア、バヌアツが挙がっています。中国に経済支援を受けている国(債務の罠に落ちている国)がかなりあります。これらの国が日本を恫喝する中国の核や軍事攻勢を抑止するでしょうか?これらの国や地域に日本が同等の資格で参加したら、中国、北朝鮮、ロシアからの脅威を無くす影響力が出るでしょうか? 広島市やマスコミが喧伝するように、地上からすべての核兵器が廃絶される機運が出るでしょうか?

 批准国だけに義務の生じる条約が、他国まで律すると思考する「平和主義」は、傲慢ですらあります。現在の批准国52のうち、核関連の技術保有国はニュージーランドがあります。メキシコも保有するかもしれません。核禁条約を主導した国の一つであるニュージーランドの場合は、1987年に「領海に、原子力推進の艦船と核武装した艦船の寄港を禁止する」法律を制定しました。その結果、米軍艦船のすべては入港しなくなりました。同国の地理的位置は、日本と違い新冷戦の前線からは遠く離れていますし、普通の国として国軍の運用があり、またファイブアイズの一員として情報活動を鋭意行う国です。

もし、キレイゴトの一部だけ真似したらどうなるでしょうか。神戸市は、「神戸方式」と称して、「非核証明書のない艦船の入港を拒否」しています。反核団体が欣喜して、日本中に広げる運動を起こしましたが広がりはありません。神戸は、阪神淡路大震災の時に、米軍艦船を神戸沖に派遣する支援申し出を謝絶したと聞いています。東日本大震災では、福島沖の米軍空母や沖縄海兵隊による仙台空港の迅速復旧で災害支援が進捗したのとは相当の差が出たのではないでしょうか。

 

「核禁条約」を、研ぎ澄まされた国際政治のリアリズムで検証せずに、核廃絶の“理想”を仮託して、「恒久平和」とか「核廃絶」に直結させるのは、日本の平和と安全を脅かすと考えます。

 

まとめ

〇「核禁条約」は、日米安保と相いれない。中国「海警法」や核恫喝で日米安保はなお重要。

〇批准国の大半は中国に経済支援を受けていて中国の政策に同調する。中国の軍事力も容認する。

〇「核禁条約」は批准国に義務だけ課す。核疑惑国や核保有国が加盟しないから核廃絶とは無縁。

〇「核禁条約」の制定を理由にした「核抑止力時代遅れ論」は想像の産物である。

〇「核禁条約」の条文には「恒久平和」の具体策はない。広島市の願望を仮託するのは荒唐無稽。

よって、「核禁条約」に、日本は絶対に参加してはならない。

                           

 

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