「平和と安全を求める被爆者たちの会」事務局緊急声明 

広報番号 201006特1 

 

                   平成222010)年6月3日 

                    事務局長代理 池中美平 

 

--- 原爆で斃されたすべての人びとに深い哀悼の心を捧げます---

 

 既に発表した趣意書に関する事務局声明が筆者池中の遅筆と多忙により遅れています。申し訳ありませんが、会員の皆様方にはもう少しお待ち願います。

 

特別の事情が生じたため「特1」として緊急声明を先行して発表します。

 

 本日(平成2263日)広島市は定例記者会見を開きました。その席で、本年8月6日に当会が協力して開催予定の講演会をどう思うか、という質問に答えて市長は「被爆者の想いに配慮してほしい」との発言をされました。

 私たちは被爆者や二世三世を中心に集まった会です。会員からは田母神氏の話をまた聞きたい、という希望が多く寄せられました。この想いに応えて、先約のあった田母神氏と、先行主催者に交渉して来広の運びとなったのは皆様ご承知の通りです。また、案内パンフレットにもその事情を記載しています。日本会議広島様に協力して、氏と高田純札幌医科大学教授のコラボ講演会をこの8月6日に開催します。多数のご来場をお待ちします。

 

 当会は広島市長の言われる「被爆者の想いに配慮」してこの講演会を開催することにしました。しかし、すこし気掛かりなことがあります。もし、市長の「被爆者の想い」という言葉が、昨年の「講演延期要請」で述べられたことと同じ意味だとすれば、私たちの「想い」をあらためて表明しなければなりません。

 

 

1.核廃絶について

 

  昨年、米国オバマ大統領はプラハで「核兵器なき世界を追求する」と演説しました。そして今年のNPT再検討会議で10年ぶりに最終文書が採択されました。

しかし、64の行動計画が採択されたといっても、内容的には加盟国の「決意」表明であり、行程表は削除されました。具体性や拘束力はありません。「核なき世界」は依然として“遠い将来の目標”にすぎないのです。プラハ演説での「自分の生きている間には実現しない」と述べていることが証明されました。

各国の利害や思惑の交錯する中での合意とはこの程度に留まるのが世界の現状であると、改めて認識しなければなりません。そして、北朝鮮もイスラエルもインドもパキスタンもNPTには参加していません。核兵器国は状況の報告を2014年までに“報告”するだけなのです。すべて、加盟各国の「自主性」に期待するだけなのです。さらに、核兵器技術の拡散を効果的に阻止する手段も明確ではありません。

もし、現実的に阻止しようとすれば多分、力の行使つまり軍事力の行使も視野に入るでしょう。まさしくオバマ大統領がオスロでのノーベル平和賞受賞演説で述べた通り、正しい戦争(Just War)を人類は受け入れることになるのです。「話合いだけではアルカイーダに武器を置かせることは出来ない」のが現実です。中国軍の幹部は「原子爆弾は中華民族の尊厳」とまで言っています。


昨年、広島市長は「オバマジョリティ」という造語でプラハ演説を賞賛しましたが、オスロ演説まで見通した上で述べられたのでしょうか。「核廃絶」と「反戦」とは今のところ結びつかないのではないでしょうか。私たちはこのような世界の現実の中で、当面生き続けなければならないのです。

  NPTは北朝鮮を非難しましたが、核兵器を明日放棄するでしょうか。この国のなかで「核廃絶」だけを叫び続けて、当面の平和を維持する現実的手段を求めたり意見を聞く機会を持とうとする者を排除すれば、この現実から逃れて至福の平和が来るのでしょうか。それが私たちの最も危惧するところです。

  当会の被爆者たちの「想い」はこれらのことを誰よりも深く考え、研究することにあります。最も深くそれを行う日は私たちにとって、広島の8月6日をおいて他にはありません。実現見通しのないスローガンだけの無為無策の中に、自分達の子孫を放り出すほど、私たちは無責任ではありません。

 

 

2.平和を保持するもの


 先の大戦中にスイスは戦争をしました。びっくりする人がいるかも知れませんが事実です。

ナチスドイツは開戦初期にイタリアとの直通ルートをドイツ軍の管理下に置くことを要求しました。今のロマンチック街道に続く道と鉄道です。スイスは即座に動員体制を敷き、戦時統制経済を施行し、非戦闘員を南部に疎開させました。そして、ドイツ軍の進撃を阻む体制を取りました。主要な道路と橋には地雷を仕掛け、国の東西を結ぶ幾重もの戦車柵を作りました。ドイツ軍進撃路の要所々々に塹壕を掘り、スイス兵は全滅覚悟で配置についたのです。戦闘スローガンは次の通りです。

「進撃を食い止める唯一の手段は、スイス人の血と肉を出切るだけ高くドイツ軍に売り付けることだ」と。この構えでドイツ軍は進撃を諦めました。

安全なき平和はない。構えなき安全はない。覚悟なき者には平和は訪れないのです。

スイス政府編の「民間防衛」にはこう書いてありました。「警戒せよ、敵は平和の言葉を使う」と。現在は全く別の世界でしょうか。北朝鮮の核はNPTが合意文書を採択しても、非難をしても何も変わりがありません。冷戦崩壊後に、核の技術・ノーハウの拡散は脅威を顕しました。クエートはイラクに襲われました。そのとき、駐日クエート大使はこう言いました「私たちにもし悪いところがあったとすれば、それは私たちがあまりにも平和的過ぎたからだ」と。あのとき、話し合いだけで即座にクエート国家は回復したでしょうか。


核の知見は人の頭の中にあります。人の移動は抑止できません。

「戦争反対」と叫ぶのは簡単です。しかし、現実世界ではまだ、苦渋の選択が必要な場合があるのかもしれません。オバマ大統領のオスロ演説の意味であれば、私たちもまた「オバマジョリティ」だと言えましょう。今年の平和宣言では是非とも具体的な実効性のある対策が述べられることを望みます。そうすれば、私たち民間人が高いお金を使って講演会を開いたり、多忙の中で書物を研究することもないでしょう。

 

 

3.核武装論者という言い掛かり

 

 私たちが講師に選んだ田母神氏が「核武装論者」だから“イケナイ”という意見があります。ではオバマ氏はどうでしょうか。彼は今年、核弾頭数の削減とともに数千発の保有核兵器を延命維持管理する予算を通しました。彼の国は核武装をしているのです。彼は核武装を維持し続けているのです。

オバマ氏はプラハで「間違ってはいけない、核兵器がある限り、米国は同盟国チェコの兵器庫になる」と言っています。もしこの言葉を田母神氏が言えば、「戦争狂」とのレッテルが貼られることでしょう。またオバマ氏はロシアへの脅威からポーランドが渇望し、約束していたMD配備を反故にしました。大国の駆け引きのなかで小国が弄ばれたのです。

プラハでは「頭越しに小国の運命を左右する決定は絶対にしない」と明言したにも関わらず、です。


「核廃絶を目指す」と言っただけで賞賛することを私たちはしません。現実にある事実を見ます。田母神氏は以前、ソ連のSS20の脅威を減殺させるために、西ドイツ(当時)、オランダ、ベルギーなどへパーシングミサイルが配備されたことを指摘しました。この例を引いて日本の選択肢の一つと言われたように思います。もしこれが「核武装」ならドイツもオランダなどはすべて核武装国です。その政府は核武装論者だったでしょうか。

また、英国は核ミサイルは作ったが、戦略潜水艦を作るには米国の反対があって、米国からの貸与を受けた事実も指摘したようです。氏は現実をよく知っています。事実の指摘もします。事実を積み上げた思考に基づいて、この国のことを深く考えられているのだと思います。だから私たちは氏の言葉にも耳を傾けます。事実を基にした思考から得られたこの国の平和の基礎となる論理的選択肢の一つをあげつらって、「核武装論者」だから排除するというような行動に、私たちは組みしません。民主主義はいかなる言論も許すのです。民主主義を否定する言論をも含めてです。

  

 

4.国毎にある平和


  中東は対立と紛争の中にあります各々は何を考えているのでしょうか。

ガザを支配するハマス政府は「イスラエル国家を消滅させ地中海に叩き込む」そして、パレスチナ全土をパレスチナ人の手にすることを目標としています。その時がくればハマス政府には平和が訪れるでしょう。

イスラエルは建国以来の戦勝で得た地域を領土とすることを主張しています。エルサレムをすべてイスラエルの地にした時、イスラエルには平和が訪れるでしょう。

中国は台湾の武力攻撃も視野に入れながら、自国の支配下に入れることを主張しています。また、沖縄が清国時代に朝貢していたことを理由にして、日本領土であるとは公式には認めていません。台湾と沖縄が支配下に入った時、中国には平和が訪れるでしょう。

北朝鮮は韓国を支配下に入れたとき平和が訪れるでしょう。

紛争とはそういうものではないでしょうか。同じ「平和」という言葉を使っても、意味の全く違う場合があります。国の数だけ「平和」と「正義」とがあるのかも知れません。この中でしか暮らせない私たちが「今」を生きるためになすべきことは何か、これを深く考え、そして知りたいと強く、強く思っています。


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少しの事例を基にして、私たちが田母神氏と高田教授を招聘することの背景を述べました。私たちは被爆者です。だから私たちの平和のために幾つもの選択肢を知りたいと思います。そして考えます。それは被爆者だからこその責務だと信じます。

 

--- 緊急声明! 平成22年8月6日の講演会に向けて ---

 

 


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