広島市長 松井一實様
ご担当課 健康福祉局原爆被害対策部調査課 御中
(写し)日本国内閣府気付
内閣総理大臣 安倍晋三様
防衛大臣 中谷 元様
平成27年度広島市平和宣言 並びに「被爆者代表から要望を聞く会」に関する要請事項(公開文書)
「広報番号:HA2017-07/1」
前略
本年のNPT再検討会議で米国まで出向かれて、世界に向けて演説された市長のご努力とご健闘に対して、心からの敬意と感謝を申し上げます。中国の横車によって合意文書採択が決裂したことは、全会一致を原則とすることから予測されていたとはいえ、残念でありました。但し今年は韓国他12ヶ国も同調して「日本は第二次世界大戦の加害者ではなく被害者であるように描こうとしており、被爆地訪問要請文は歴史を歪曲するものだ」とした中国の専横で決裂したことに心底からの怒りを覚え、日本がそれを掣肘し反撃するいかなる手段も持たないことに対して切歯扼腕致しました。中国こそが歴史を歪曲して世界の海と陸の要衝を急速に簒奪していることを糊塗するものに他なりません。さて、そのような世界の流れの中で、70年目の原爆忌を迎えることになりましたが、昨年も指摘申し上げた「被爆者代表から要望を聞く会」の昨年発言実績への疑念と改善要望、及び、市平和宣言内容の昨年との整合性の観点から言及あってしかるべき事柄を「要請」として纏めました。ご多忙中のところ、恐れ入りますが是非ご一読の上、ご検討頂きたく存じます。 草々
平成27年7月吉日
平和と安全を求める被爆者たちの会 代表 秀 道広(被爆二世)
同上 副代表 池中美平(被爆二世)(文責)
平成27年度広島市平和宣言並びに
「被爆者代表から要望を聞く会」に関する要請事項(本文)
1.広島市平和宣言に昨年との整合性を保つために記述すべきと考える要請事項
昨年の平和宣言では「日印原子力協定締結」への懸念と批判が言及されました。核技術拡散抑止の観点から述べられたものと解釈いたしますが、そうであるならば今年は昨年批判されたよりも深刻な協定が結ばれたことへの言及あってしかるべきであります。NPT再検討会議で世界に向けて「核拡散の防止」と「核廃絶」を訴えられたのですから、それが外国同士であっても批判できない理由にはならないはずです。下記の事実が報じられました。
(1) 米韓原子力協定の締結
「2015年4月22日、米韓は韓国による使用済核燃料の処理とウラン濃縮に道を開く協定で妥結した。韓国はウラン濃縮も米国産輸入ウランを用い、濃縮率が20%未満で認められる。(共同通信)」
韓国はノムヒョン政権時代に秘密裡にウラン濃縮実験を行い、露見しました。このとき、同大統領は遺憾の意を表したものの制裁は何も受けていません。韓国はウラン濃縮技術を既に獲得していると見るべきで、20%濃縮が許可されたということは、濃縮段数を増加すれば容易に核兵器級に近づけ得ることを意味します。因みに、日本がIAEAに許容されるのは3%以内で随時の検査を受けます。ウランの入手経路を米国が常に監視することもないため、他国から入手したウランから核兵器に至る可能性は非常に高まったと言えるでしょう。最近の中国との接近ぶりを見れば、その恐れは強いと見るべきです。
(2) カナダがインドにウラン輸出で合意
「2015年4月15日、カナダは今後5年間に原子力発電用のウラン計3230トンを輸出する内容で合意した。カナダはインドに輸出した核技術が1974年の核実験につながったとして濃縮ウランなどの移転を厳しく制限してきたが、経済関係強化を優先し方針を転換した。
オーストラリアも昨年9月、生産するウランのインドへの輸出を可能にする原子力協定をインドとの間で締結している。(共同通信)」
インドは既に核兵器保有国であってNPTには非加盟です。従って、「核兵器国」ではなく、NPTの条約規定からも自由な国です。だからと言って黙殺はできず、昨年の広島市平和宣言の「日印原子力協定」への批判からすれば、言及あってしかるべき事案だと見做すべきです。尤も「それは“内政干渉”だ」と一言で跳ね返されるだけの事柄に属するのだという認識はあります。しかし、この項目には重大な意味があります。第一に、昨年の原爆忌に「日印原子力協定」を平和宣言で批判した事柄を、1ヶ月後にはオーストラリアが簡単に実行したこと、第二に核兵器開発を抑止する名目で禁輸していたが、商売利益の前にはそれは取るに足りない事柄に過ぎないものになったことです。
提示した2つの事柄は重大な意味を持っています。核兵器の問題は今や、核保有国特有の事柄ではなくなったこと、そして例え広島・長崎の原爆犠牲をいかに訴えようとも、それは単なる商売上の利益の風下の地位しか持ちえないことです。NPT再検討会議の結果が何であろうとも、世界各国の政治行動にはいささかの影響も与えないのが明らかになったのでした。再検討会議の前には、国連加盟国の三分の一が日本提案を支持する決議を事務総長に提出しましたが、かの国々はその後何か有意な行動を起こしたのでしょうか。起こさなかったとしても、彼らに強制するいかなる超国家権力は無いのですから、非難に値するものではありません。とすれば、我々日本国の成すべきことは以下に記載するような国際状勢を前提にして、今の「空想的反核平和」だけを唱えることから、現実に私たちの平和と安全を実効的に担保するために必要な政策の提言へ転換すべき時が来ているのだと考えなければなりません。
手っ取り早く、日本政府だけを批判するのは恰好付けの自慰行為に等しいと思われます。
-国際状勢の要点現況-
●スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は2015年6月15日、2015年版の年鑑を発表した。それによると世界の核戦力は削減されつつあるが、すべての核保有国で兵器の近代化が進められている。中国だけが保有核弾頭数を10発増やし260発になった。
核弾頭総数は15、850発に削減されたが、約1800発が実戦配備され、高度な警戒態勢に置かれている。米露両国の、核削減のスピードは10年前より鈍化。同研究所の上級研究員は「核保有国で近代化計画が進んでいる事実は、どの核保有国も近い将来、核戦力を放棄することがないことを示している。」(ロンドン発)
●中国軍が多核弾頭型の長距離弾道ミサイルの運用に向けた準備に入っている。南シナ海のスプラトリー諸島で進める岩礁の埋め立てと併せ、米国が警戒を強めている。昨年、中国軍が公式文書で戦略ミサイル部隊における「核弾頭の適切な増加」を明記していたことが判明している。中国が進めているのはそれぞれの弾頭が独自の攻撃目標に向かうMIRVと呼ばれる技術とされる。米国は中国側に多弾頭型ミサイルの配備について公式協議を求めているが、中国は応じていない。(NYタイムズ=共同通信)2015年5月16日
※この報道の確度が高ければ、従来から言われている中国軍の核弾頭数は前項予測の260発ではなく、昨年の米研究機関の予測数である1000発以上の可能性が高い。
●米ジョンズ・ホプキンス大客員研究員のジョエル・ウィット氏は2015年2月24日、北朝鮮が最悪の場合、2020年までに核兵器100個を製造できるとの分析を発表した。
さらに、北朝鮮が既に、日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」に核弾頭を搭載する能力があるとの見方を示した。(共同通信)
●ロシアのプーチン大統領が国営テレビの番組で、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した際、核戦力を臨戦態勢に置く用意があったことを明らかにした。クリミア併合宣言から1年という時期に、核兵器の使用に言及すること自体、対露批判を続ける国際社会へのあからさまな牽制だ。(2015年3月18日、全国紙記事)
●ロシアのワニン駐デンマーク大使は、デンマークがNATOのミサイル防衛計画への参加を決定すれば「デンマークの艦船がロシアの核ミサイルの標的になりうる」と発言した。
(2015年3月21日デンマーク紙発)
ほんの数か月の報道をサンプリングするだけで、これだけの核兵器状勢の重大な変化と強化が感知されます。広島市平和宣言もこのような変化を敏感に反映するものでなければ、国際的な関心を呼ぶことは難しいでしょう。
2.「被爆者代表から要望を聞く会」に関する要請
本件は昨年に「代表」選定手続きの質問や、この会での表明意見がイデオロギー的に偏り過ぎていることの問題点を指摘致しております。“代表”選定手続きに関しては、昨年のご回答である「広原調第37号」で判明しました。そして彼らが真に被爆者を代表する者ではないことが明らかにされました。
昨年は、その会で広島と長崎でそれぞれ「集団的自衛権の容認反対」意見を、特に長崎では 首相を前に「口を極めて罵る」がごとき発言がなされました。私たちには、その発言内容は支離滅裂な非論理の典型としか評価できないのですが、ネット空間や一部の特定傾向マスコミにはいたく好ましく聞こえたようで、宣伝にこれ努めるメディアもそれなりにあったようです。
この状態は決して正常ではありません。下記の不備を指摘します。
(1)「広原調第37号」による選出方法は、特定集団によって被爆者側に存在する種々の異論を排除できる民主的手続きの擬制によるものであって、真の民主的手法によるものとはほど遠く、被爆者間に明確な差別的取扱いがなされていると見做されます。
(2)「広原調第37号」には、国(所管は厚生労働省でしょう)が関与して慣習的に行ってきた手法であることが示されています。そうである以上、厚生労働省の所管範囲を逸脱した、個人感情に根差す政治的問題を特別に表明する場を与えることは特権的越権行為の許容ということになります。例えば、この場で「北朝鮮との国交樹立要求」や「韓国との国交断絶要求」あるいは「日米安保条約破棄」を“被爆者代表”の名で表明することは適切でしょうか?現行の手順ではそれが可能になっています。
(3)現在、国会で鋭意審議中の安全保障法制に関する意見が、今年も“被爆者代表”から論及されることが予想されます。(2)項に述べたようにこれは「不適切」というだけではなく、広島市が地方自治法第一条の二 〇2「・・国においては国際社会における国家の存立にかかわる事務、・・・・その他国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政は・・・地方公共団体に委ねる・・」の規定を過去長く軽視又は違反してきたことになるのではありませんか?
大きな問題点を示しました。それに加えて存命の被爆者と2世等の観点からも申し上げます。昨年長崎で発言された方は70歳を若干超えておられたようです。つまり被爆時には「幼児記憶」がある程度です。原爆投下時点の経験だけから、全体を認識し思考力をもって判断可能なのは少なくともハイティーン年代以上でしょうから、被曝当時を正しく論述できるのは80歳台後半以上の方々に限られるでしょう。それ以下では例え被爆者だとしても、その価値判断は後天的に獲得した教育、知識、思考に依るものであって、この点では被爆者と2世以降との間に差異はありません。発言はあくまでも獲得した知識ベースでしかなされませんから、この会は名称からして不適切であり、また本来、厚労省の被爆者援護を主題に始められたことですから、すでに存在意義を失っています。よって、以下の複数案の実現を要請します。
① 発言者を意見内容毎に複数にする。(昨年からの私たちの要望)
② イベント的直接発言形式ではなく、紙面による意見募集にする。
③ 会を廃止して一般請願に委ねる。(本項を推奨。現行の少数者特権と化した会は有害である)
以上の要請は日本国憲法第16条[ 請願権 ]に基づいて行ったものです。